DIPS指標の性能

各々が抱えるバイアスを調べる
検証
作者

GHL

公開

2026年5月21日

更新日

2026年7月14日

今回はあくまでも簡易的に、Fangraphs や Baseball Prospectus のリーダーボードですぐに取得できる指標の性能をまとめておきます。

各指標の記述力、予測力

他でいくらでも確認できますが、各指標の記述力と予測力もおさらいしておきます。

目的変数は失点率としたいですが、MLB では防御率スケールが一般的であり、実際今回使用する指標のほとんどは防御率スケールなので防御率とします。

以下が今回対象とする指標です。

一部、リーダーボードに存在しないが容易に算出できるもの、そのままの値ではなく補正項の更新をしたものもあります。

StatCorner の「About tRA」を見ると平均への回帰を行う工程があるように解釈できますが、他文献から tRAr についての説明だと推測できます。少なくとも FanGraphs においては平均への回帰を盛り込んでいないことは明言しており、今回使用する tERA は FanGraphs の値を加工していません。

ヒント対象指標一覧
  • xERAxwOBA の防御率スケール指標。\text{xERA} \propto \text{xwOBA}^2
  • tERAtRA の防御率スケール指標。\text{tERA} = \frac{\text{Expected Runs}}{\text{Expected Outs}} \times 27 \times \left(\frac{\text{ER}}{\text{R}}\right)_{\text{LG}}
  • FIP:守備の関与が極々限定的なイベントを対象に得点価値で重みづけした防御率スケール指標。\text{FIP} = \frac{13\cdot\text{HR} + 3\cdot(\text{BB}+\text{HBP}) - 2\cdot\text{K}}{\text{IP}} + C_{\text{FIP}}
  • kwERA:K-BB% のみを対象とした防御率スケール指標。\text{kwERA} = C_{\text{kw}} - 12 \times \frac{K - BB}{PA}
  • GBkwERA:kwERA と ERA の乖離を GB% を変数とする二次関数で補正した指標。\text{GBkwERA} = \text{kwERA} \times (-3.518 \cdot \text{GB\%}^2 + 2.344 \cdot \text{GB\%} + 0.629)
  • xFIP:FIP の HR 数をリーグ平均 HR/FB から期待される HR 数で置き換えた防御率スケール指標。\text{xFIP} = \frac{13 \cdot (\text{FB} \times \text{lgHR/FB}) + 3 \cdot (\text{BB}+\text{HBP}) - 2 \cdot \text{K}}{\text{IP}} + C_{\text{FIP}}
  • cFIP:構成要素(K・BB・HBP・HR)について、混合モデルで文脈を分離し推定された投手に帰属する効果を FIP 係数で加重合計した指標。
  • DRA:打者管理(value/PA)・走者管理(SRAA・TRAA・EPAA)の投手に帰属する効果をそれぞれ混合モデルで推定し、先発割合・対戦打者数を含めた 6 変数を RE24/PA に回帰させた後、投手個人の対戦打者数で失点率にスケールした指標。
  • SIERA:線形近似では残るバイアスを、K%・BB%・(GB-FB)% の 2 次項・交互作用項で補正した防御率スケール指標。\text{SIERA} = f\!\left(\frac{K}{PA},\, \frac{BB}{PA},\, \frac{GB - FB}{PA}\right) + C_{\text{siera}}

同年の記述力(左)と翌年の予測力(右)です。

xFIP_OFFB は 1.02 等で採用されている分母が外野フライのもの。

cFIP と DRA は防御率スケールではないので RMSE は防御率に線形補正したものを表示。

同年の防御率の記述力
TBF >= 100 / MLB 2002 - 2025
n RMSE
FIP 11377 0.577 0.809
tERA 11377 0.571 0.815
xERA 5423 0.564 0.835
xFIP_OFFB 11377 0.401 0.962
xFIP 11377 0.387 0.974
SIERA 11377 0.373 0.984
GBkwERA 11377 0.372 0.985
DRA 11377 0.370 0.987
kwERA 11377 0.326 1.021
cFIP 11377 0.306 1.036
※RMSEは線形補正した後の誤差
翌年の防御率の予測力
TBF >= 100 / MLB 2002 - 2025
n RMSE
SIERA 7587 0.145 1.097
GBkwERA 7587 0.139 1.101
cFIP 7587 0.135 1.104
xFIP_OFFB 7587 0.132 1.106
xFIP 7587 0.129 1.108
kwERA 7587 0.127 1.109
DRA 7587 0.125 1.111
tERA 7587 0.110 1.120
FIP 7587 0.103 1.124
xERA 3272 0.085 1.163
※RMSEは線形補正した後の誤差

記述力

いくつか触れておきます。

まず一つは FIP vs tERA でしょうか。よく tRA の解説で、「FIP が評価対象外としている BIP に関しても投手の責任範囲として~」というニュアンスの文言が並び、実際理論的には正しく思えます。ただ実態として防御率の記述力は FIP と比して高くなっていません。理由として挙げられるのは分母の違いでしょうか。FIP は実際のアウトあたりの得点価値、tERA は期待されるアウトあたりの得点価値を算出しています。得点価値部分の記述力の向上をアウト数部分で相殺している形になっていると言えそうです。

厳密には現行の FIP は BIP を評価対象外にはできていません。分母がイニング(取ったアウトの数)ですので間接的に BIP も評価されています。

もう一つ、cFIP にも触れておきます。この中ではかなり記述力が低くなっています。ただこれが悪いとは一概に言えません。防御率に含まれるノイズや外部要因を除いた結果であればむしろ正しい記述力とも言えます。cFIP は混合モデルによりノイズを平均へ縮小し、球場や捕手、審判といった外部要因の影響を投手自身の効果から分離することを意図しているので、防御率の記述力が FIP より低くなるのは自然な結果です。

予測力

先ほど述べたノイズや外部要因の除去が正しくできていれば予測力は上がります。実際に cFIP は FIP と順位が逆転しておりその意図は反映されていそうです。

FIP ↔︎️ xFIP や FIP ↔︎️ cFIP のような逆転が kwERA ↔︎️ GBkwERA には見られないところは要注目です。kwERA が拾わない打球部分を拾う GBkwERA は記述力だけでなく予測力も高くなっています。つまり kwERA が捨てている GB% という打球情報はノイズや外部要因以外にも投手に帰属すべき情報が含まれている可能性が高いと解釈できます。

開発の順序としては kwERA → GBkwERA ですので kwERA はノイズや外部要因が大きくなる打球結果や走者管理を捨てたという点で大きな誤差を修正している指標です。ただ kwERA をもってして、打球情報の有用性を低く見積もるのは早計でしょう。

DRA については記述力、予測力ともに中途半端な位置にいます。DRA の Value/PA モデルでやっているのは投手効果の記述ですので、他効果の分離を直接的に行わない他の指標より記述力が落ちたとしてもそれは「正しい」記述力の低下と同義になりません。ただ投手の効果を推定できているなら予測力に関しては上昇してほしいところです。同じく混合モデルを活用している cFIP の予測力が高いことを考えると打球部分の過剰適合が気になります。

2015 年以降の xERA については他指標と条件が揃っていないのでここでは言及しません。

各指標のバイアス

では主題であるバイアスについてまとめていきます。

年代

まずは年代から。打球データが公開管理された 2002 年と Statcast データが公開管理された 2015 年を区切りとした年代の比較です。

同年の記述力です。

同年 防御率の記述力
TBF >= 100 / MLB 2002-2014
n RMSE
FIP 5,954 0.577 0.799
tERA 5,954 0.560 0.814
xFIP_OFFB 5,954 0.412 0.941
xFIP 5,954 0.399 0.951
SIERA 5,954 0.388 0.961
GBkwERA 5,954 0.383 0.964
DRA 5,954 0.375 0.970
kwERA 5,954 0.337 0.999
cFIP 5,954 0.307 1.022
xERA 0 NA NA
※RMSEは線形補正した後の誤差
同年 防御率の記述力
TBF >= 100 / MLB 2015-2025
n RMSE
tERA 5,423 0.585 0.814
FIP 5,423 0.577 0.822
xERA 5,423 0.564 0.835
xFIP_OFFB 5,423 0.388 0.989
xFIP 5,423 0.372 1.002
DRA 5,423 0.365 1.007
GBkwERA 5,423 0.359 1.012
SIERA 5,423 0.355 1.015
kwERA 5,423 0.312 1.048
cFIP 5,423 0.305 1.054
※RMSEは線形補正した後の誤差

全体的には減少傾向にありますが、これは、投手の稼働量の低下やそれとも関連する出場選手数の増加を考えると自然な結果です。実際、サンプルサイズが 5,000 を超えていますので、R² と RMSE で SD はほぼ完璧に近似でき、2002 - 2014 は 1.229、2015 - 2025 は 1.264 ほどとなります。つまり SD は 3% ほど大きくなっていますので RMSE ではそれが目安になります。

順位の変動を見ると、まずは FIP と tERA でしょうか。FIP は R² で変化はなく、RMSE では 3% ほど大きくなっていますので性能は維持できている、つまり、BIP の価値がより投手に因るようになったとはこの結果からは言えません。

tERA は母集団の SD が大きくなる中で RMSE を維持しており、性能の向上が確認できます。BIS の打球分類はブラックボックス的な部分が多く、打球分類自体の精度向上の可能性はあるものの、むしろ精度が低い方が打球結果のバイアスが残りやすいと考えると、これは要因とは思えません。

要因として示唆されるのが、時代の変化に伴う BIP 割合の変化です。周知の通り、近年は Statcast 以前と比較して、K% や HR% は増加しており、BIP という tERA が暴れる要素は減っています。この結果による精度向上とすると、tERA は現代野球により適した指標というよりかは現代野球なら BIP を気にする余裕も出てきた指標というニュアンスの方が正しいかもしれません。

また、SD の増加分を考慮しても多くの指標はその精度が落ちています。精度が向上していると言えるのは tERA のみ、横ばいが FIP と cFIP のみです。ここを深掘りすると面白いかもしれませんが、そもそも DIPS 指標の多くは年代で言うと Statcast 以前に構築されたものやその環境に基づいた係数で構成されたものですので、FIP や cFIP が横ばいであることの方を深掘りするという方向性になりそうです。

翌年の予測力です。

翌年 防御率の予測力
TBF >= 100 / MLB 2002-2014
n RMSE
SIERA 4,315 0.169 1.065
GBkwERA 4,315 0.160 1.071
xFIP_OFFB 4,315 0.156 1.073
cFIP 4,315 0.155 1.074
xFIP 4,315 0.152 1.076
kwERA 4,315 0.150 1.078
DRA 4,315 0.140 1.084
tERA 4,315 0.130 1.090
FIP 4,315 0.130 1.090
xERA 0 NA NA
※RMSEは線形補正した後の誤差
翌年 防御率の予測力
TBF >= 100 / MLB 2015-2025
n RMSE
SIERA 3,272 0.112 1.145
GBkwERA 3,272 0.112 1.145
cFIP 3,272 0.107 1.148
DRA 3,272 0.103 1.151
xFIP_OFFB 3,272 0.101 1.152
xFIP 3,272 0.100 1.153
kwERA 3,272 0.098 1.154
tERA 3,272 0.085 1.163
xERA 3,272 0.085 1.163
FIP 3,272 0.072 1.171
※RMSEは線形補正した後の誤差

こちらは SD の増加分を考慮しても一様に精度が低下しています。

多くの指標で記述力が低下しているので不思議なことではないですが、記述力が維持されていた指標も低下していますし、記述力の低下だけでは説明できないほどの低下が見られます。

素直に考えると、近代の MLB における打者や投手の多様性の拡大(同じ打者や投手、その他環境による対戦が減少)や競技レベルの向上、研究によるプレースタイルの画一化により、逆にランダム変動の占める割合が大きくなるなどが考えられるでしょうか。また、いわゆる「メタ」の移り変わりの早さもあるかもしれません。

対面打者数

次は対面打者数での分割です。以降は xERA も仲間に入れてあげたいので 2015 年以降とします。

同年 防御率の記述力
MLB 2015-2025 / TBF<275
n RMSE
tERA 3,101 0.545 1.077
FIP 3,101 0.529 1.096
xERA 3,101 0.524 1.102
xFIP_OFFB 3,101 0.340 1.297
xFIP 3,101 0.325 1.312
SIERA 3,101 0.315 1.322
GBkwERA 3,101 0.309 1.328
DRA 3,101 0.303 1.334
kwERA 3,101 0.261 1.373
cFIP 3,101 0.248 1.385
※RMSEは線形補正した後の誤差
同年 防御率の記述力
MLB 2015-2025 / TBF>=275
n RMSE
tERA 2,322 0.632 0.641
FIP 2,322 0.628 0.644
xERA 2,322 0.616 0.655
DRA 2,322 0.449 0.785
xFIP_OFFB 2,322 0.437 0.794
SIERA 2,322 0.421 0.805
xFIP 2,322 0.419 0.806
GBkwERA 2,322 0.415 0.809
cFIP 2,322 0.376 0.835
kwERA 2,322 0.366 0.842
※RMSEは線形補正した後の誤差

対面打者数 275(リリーフも上位 10% ほどがクリアする閾値)を基準として分割しています。TBF によって増減する SD をどう処理するかという面も含めた評価をしたいので前項のような RMSE の補正はしません。

全体として R² はサンプリング誤差の減少で 0.10 前後の増加が見えますが、特筆しているのは混合モデルを使用している DRA と cFIP です。これは理論的には当然であり、また方向としてはサンプルサイズの増加で特筆して記述力が上がるというより、サンプルサイズの不足時に無理に記述しない(平均への縮小が働く)という方向がより特徴を理解できるでしょう。

翌年の予測力です。

翌年 防御率の予測力
MLB 2015-2025 / TBF<275
n RMSE
SIERA 1,598 0.082 1.265
GBkwERA 1,598 0.082 1.265
cFIP 1,598 0.075 1.270
kwERA 1,598 0.071 1.272
DRA 1,598 0.071 1.272
xFIP_OFFB 1,598 0.069 1.274
xFIP 1,598 0.068 1.275
tERA 1,598 0.060 1.280
xERA 1,598 0.059 1.280
FIP 1,598 0.043 1.292
※RMSEは線形補正した後の誤差
翌年 防御率の予測力
MLB 2015-2025 / TBF>=275
n RMSE
SIERA 1,674 0.142 1.067
GBkwERA 1,674 0.140 1.068
xFIP_OFFB 1,674 0.135 1.071
cFIP 1,674 0.135 1.072
xFIP 1,674 0.134 1.072
DRA 1,674 0.129 1.075
kwERA 1,674 0.124 1.078
tERA 1,674 0.113 1.085
xERA 1,674 0.111 1.086
FIP 1,674 0.107 1.089
※RMSEは線形補正した後の誤差

記述のときのような分かりやすさはありませんが、こちらもランダム効果による小サンプルでの縮小が効いています。また Talent と Value で大きくその影響度が変わる打球部分を無視した kwERA も小サンプルに強みを見せています。

一つ注意点としては、それでも SIERA や GBkwERA のような打球の評価や非線形的な評価をする指標が上位ですので、少なくとも打球の記述がされているリーグでは kwERA が最強のような言い回しは微妙です。kwERA は評価する要素の少なさの割に精度が高いというニュアンスが正しいでしょう。

GB%

ここからは 2015 年以降かつ TBF 275 以上に絞ります。

まずは GB% について、三分割したグループごとにその性能を見ていきます。

同年の記述力とバイアスです。

同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 下位(<93)
n RMSE Bias
tERA 774 0.632 0.646 +0.002
FIP 774 0.618 0.658 −0.051
xERA 774 0.593 0.679 +0.076
DRA 774 0.438 0.798 −0.161
xFIP_OFFB 774 0.425 0.807 −0.076
SIERA 774 0.411 0.817 +0.078
xFIP 774 0.407 0.820 −0.102
GBkwERA 774 0.409 0.819 +0.030
cFIP 774 0.359 0.852 −0.009
kwERA 774 0.407 0.820 +0.227
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 中位(93–106)
n RMSE Bias
tERA 774 0.644 0.624 +0.009
FIP 774 0.637 0.630 +0.031
xERA 774 0.639 0.628 −0.012
DRA 774 0.455 0.772 +0.048
xFIP_OFFB 774 0.436 0.785 +0.036
SIERA 774 0.418 0.798 +0.005
xFIP 774 0.422 0.795 +0.040
GBkwERA 774 0.418 0.798 −0.032
cFIP 774 0.372 0.828 +0.035
kwERA 774 0.417 0.798 +0.048
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 上位(≥106)
n RMSE Bias
tERA 774 0.603 0.652 −0.011
FIP 774 0.616 0.641 +0.017
xERA 774 0.604 0.651 −0.062
DRA 774 0.457 0.762 +0.108
xFIP_OFFB 774 0.430 0.781 +0.037
SIERA 774 0.414 0.792 −0.083
xFIP 774 0.416 0.790 +0.058
GBkwERA 774 0.389 0.808 +0.004
cFIP 774 0.367 0.823 −0.028
kwERA 774 0.357 0.829 −0.277
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)

バイアスは(防御率 - 各指標)で計算していますので、+ なら各指標がその投手を過大評価、- なら過小評価しているということになります。

程度は大きくないですが、そもそも防御率が GB% 上位の投手を過大評価することも頭に入れておきたいです。同じエラーでもゴロのエラーの方が発生頻度は高く、その難易度も高い(守備の責任割合が低い)ので、GB% 上位の投手ほど投手に責任のある非自責点が多くなります。

一番目立つのは、やはり kwERA でしょう。GB% 下位の投手を大きく過大評価、上位の投手を大きく過小評価している様がうかがえます。打球において GB% はそれ以外より価値の低い打球ですので当然です。

個人的に一般的な野球ファンに勘違いが多いなと感じるのが FIP や xFIP のバイアスです。kwERA と比較すると程度は大きくないですが、これらは GB% 下位、つまり FB% 上位の投手を過小評価します。FIP は BIP を均しますが、フライは BIP においてはゴロより価値の低い打球です。FB% 上位の投手は当然 LD% も下位になりますので BIP を均すると FB% 上位の投手は過小評価されます。

xFIP はフライ打球も均しますので FIP のようなバイアスが薄まると思う方もいるかもしれませんが、実際にはそうなりません。これは GB% 下位、FB% 上位の投手は同じフライでも価値の低いフライが多くなることに起因します。GB% 上位の投手が同じゴロでも価値の低いゴロが多くなるのと構造的には同じで、よりフライやゴロを打たせる投手というのはよりライナーの打球角度帯から外せている投手ということになります。そうなると、同じフライやゴロでも価値の高いライナーに近い打球が減ります。xFIP はフライの部分でもフライ以外の部分でも FB% 上位の投手を過小評価しているという指標です。

DRA はかなり GB 上位を過大評価、下位を過小評価しています。このバイアス分析は簡素にできないので次の宿題でしょう。Value / PA が悪さをしている可能性は考えられます(同じ Value / PA でも GB% 上位の投手の方が高出塁型になる)が、DRA は実際の TBF で最終的な Value を出していますのでそのバイアスは相殺できていると思えます。ランダム効果による縮小の違いなども考えましたが、どれも GB% 上位の投手を過大評価する方向と推測しづらいです。

翌年の予測力とバイアスも見ておきましょう。

翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 下位(<94)
n RMSE Bias
tERA 558 0.091 1.135 −0.044
FIP 558 0.091 1.135 −0.105
xERA 558 0.094 1.133 +0.005
DRA 558 0.115 1.120 −0.207
xFIP_OFFB 558 0.139 1.105 −0.143
SIERA 558 0.151 1.097 +0.009
xFIP 558 0.137 1.106 −0.168
GBkwERA 558 0.150 1.098 −0.044
cFIP 558 0.122 1.116 −0.070
kwERA 558 0.150 1.098 +0.162
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 中位(94–107)
n RMSE Bias
tERA 558 0.095 1.061 −0.005
FIP 558 0.086 1.066 +0.015
xERA 558 0.098 1.059 −0.019
DRA 558 0.108 1.053 +0.040
xFIP_OFFB 558 0.104 1.055 +0.032
SIERA 558 0.109 1.052 +0.002
xFIP 558 0.107 1.054 +0.036
GBkwERA 558 0.110 1.052 −0.040
cFIP 558 0.107 1.053 +0.024
kwERA 558 0.106 1.054 +0.045
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
GB%+ 上位(≥107)
n RMSE Bias
tERA 558 0.151 1.055 +0.049
FIP 558 0.141 1.061 +0.088
xERA 558 0.138 1.063 +0.015
DRA 558 0.172 1.043 +0.163
xFIP_OFFB 558 0.160 1.049 +0.108
SIERA 558 0.160 1.050 −0.011
xFIP 558 0.159 1.050 +0.128
GBkwERA 558 0.155 1.053 +0.084
cFIP 558 0.171 1.043 +0.045
kwERA 558 0.142 1.061 −0.205
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)

SIERA の優秀さに触れましょう。SIERA は非線形近似や交互作用近似で価値の逓増を捉えますのでこの手のバイアス分析では優秀さが浮き出ます。

全体としては、GB% 上位の過大評価が気になりますが、これはいわゆる「平均への回帰」が作用しているでしょう。GB% 上位の投手は平均への回帰によって価値の高いゴロ以外の打球が増えますので、ここでのバイアスは過大評価の方向に出ます。

K%

次は K% について、三分割したグループごとにその性能を見ていきます。

同年の記述力とバイアスです。

同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 下位(<88)
n RMSE Bias
tERA 774 0.499 0.738 −0.060
FIP 774 0.509 0.731 +0.037
xERA 774 0.479 0.752 −0.035
DRA 774 0.270 0.891 +0.021
xFIP_OFFB 774 0.251 0.903 +0.095
SIERA 774 0.205 0.930 +0.070
xFIP 774 0.226 0.917 +0.103
GBkwERA 774 0.201 0.932 +0.078
cFIP 774 0.161 0.955 +0.185
kwERA 774 0.139 0.967 +0.037
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 中位(88–108)
n RMSE Bias
tERA 774 0.504 0.599 −0.044
FIP 774 0.518 0.591 −0.051
xERA 774 0.495 0.605 −0.033
DRA 774 0.292 0.716 −0.033
xFIP_OFFB 774 0.271 0.727 −0.065
SIERA 774 0.244 0.740 −0.068
xFIP 774 0.250 0.737 −0.065
GBkwERA 774 0.242 0.741 −0.078
cFIP 774 0.208 0.758 −0.061
kwERA 774 0.167 0.777 −0.085
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
同年 記述力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 上位(≥108)
n RMSE Bias
tERA 774 0.558 0.572 +0.108
FIP 774 0.520 0.596 +0.018
xERA 774 0.518 0.597 +0.071
DRA 774 0.277 0.731 +0.015
xFIP_OFFB 774 0.279 0.730 −0.026
SIERA 774 0.290 0.725 +0.003
xFIP 774 0.264 0.738 −0.034
GBkwERA 774 0.279 0.730 +0.006
cFIP 774 0.208 0.765 −0.121
kwERA 774 0.227 0.756 +0.055
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)

まず、一番目立つ cFIP ですが、これはランダム効果の縮小が機能しています。DRA とは違い、K% そのものを混合モデルで推定していますので、短絡的な記述では純粋な K% を平均に縮小するのは、K% 上位層では過小評価、下位層では過大評価になります。

生存バイアスにより、K% と GB% には弱い負の相関がありますので、その交絡も作用しています。

また一つ宿題になりますが、K% 中位層は軒並み過小評価気味になっている点は気になります。K% を x軸に、防御率 - 各指標を取ると下に凸になる指標が多くなっています。打球や走者管理など、いろいろ調べてみましたがしっくりくるものはなく、今後の課題です。

翌年の予測力とバイアスです。

翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 下位(<90)
n RMSE Bias
tERA 558 0.013 1.175 −0.209
FIP 558 0.009 1.178 −0.116
xERA 558 0.020 1.171 −0.195
DRA 558 0.028 1.166 −0.136
xFIP_OFFB 558 0.012 1.176 −0.092
SIERA 558 0.022 1.170 −0.124
xFIP 558 0.014 1.175 −0.086
GBkwERA 558 0.019 1.172 −0.119
cFIP 558 0.019 1.171 −0.001
kwERA 558 0.005 1.180 −0.176
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 中位(90–110)
n RMSE Bias
tERA 558 0.033 1.071 +0.009
FIP 558 0.033 1.070 +0.002
xERA 558 0.013 1.081 +0.037
DRA 558 0.039 1.067 +0.039
xFIP_OFFB 558 0.052 1.060 +0.016
SIERA 558 0.040 1.067 +0.013
xFIP 558 0.052 1.060 +0.017
GBkwERA 558 0.042 1.066 +0.006
cFIP 558 0.039 1.067 +0.018
kwERA 558 0.013 1.082 −0.002
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)
翌年 予測力とバイアス
MLB 2015-2025 / TBF≥275
K%+ 上位(≥110)
n RMSE Bias
tERA 558 0.062 0.949 +0.184
FIP 558 0.058 0.951 +0.104
xERA 558 0.068 0.946 +0.142
DRA 558 0.056 0.952 +0.085
xFIP_OFFB 558 0.066 0.946 +0.068
SIERA 558 0.064 0.948 +0.101
xFIP 558 0.061 0.949 +0.061
GBkwERA 558 0.071 0.944 +0.104
cFIP 558 0.056 0.951 −0.018
kwERA 558 0.063 0.948 +0.165
※RMSEは線形補正後の誤差/Bias = 加重平均(防御率 − 指標)

注目したいのは cFIP、記述の面ではランダム効果の縮小が悪く(悪いとは全く思わないですけど)働いていましたが、予測の面ではそれがうまく回収されており、K% のバイアスという面で偏りの無さが際立っています。

記述では K% 中位が軒並み過小評価でしたが、予測では中位らしく落ち着いていますので正直問題におもっていないところはあります。

R² が悲惨な数字に見えますが、K% という重要ファクターで層別にすると、予測子としての分散が大きく削られるので当然です。

他の指標は基本的に平均への回帰を盛り込んでいないので K% 上位ほど過大評価という傾向になっています。DRA 含めて設計思想的にこれは想定内ではありますが、これらの指標を期待値や予測値的に扱う人は前提として押さえておくポイントです。

また tERA や xERA ほど両端にバイアスが強くなっている点も改めて注意しておくべきでしょう。予測的な文脈でこれらの指標を危険性はそこそこ周知されているとは思いますが、このようにバイアスが強く出やすいという意味でも、例えば個別事例の比較では特に罠となります。

まだまだ他の視点からバイアスを見ていきたいですが、GB% や K% ほどの視点が思いつかなかったので一旦ここで終わりにします。

参考文献

Baseball Prospectus. 2026年. 「Baseball Prospectus」. https://www.baseballprospectus.com/.
FanGraphs. 2026年. 「FanGraphs」. https://www.fangraphs.com/.
Zimmerman, Jeff. 2015年. 「kwERA: The Starting Point for Pitcher Evaluations」. https://tht.fangraphs.com/kwera-the-starting-point-for-pitcher-evaluations/.